2014.6 vol.1

「ハイドランジアの憂鬱」

6月

美しきハイドランジアは、霧のような雨の中にその気品を讃える。

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紫陽花
英名をハイドランジア[Hydrangea macrophylla]といい、
ギリシャ語の造語で水の器。[Hydro+Angeion]

古来日本では、真の藍が集まると書いて「あづさい(集真藍)」と言った。
アジサイの色は、その土中のアルミニウムを吸収した量で決まる。
その土壌がアルカリ性であればアルミニウムは溶解せずに花色は赤く、
酸性であればアルミニウムは溶解しアルミニウムイオンとなり、吸収され花色は藍に。
雨の多い日本の土壌の多くは酸性に偏り、
雨と酸が手を組み溶け出すアルミニウムイオンは、農作物に適さない。
集真藍は、アルミニウムイオンを吸収して藍が集まった。
紫陽花は梅雨に咲き、日本の農作に貢献すべく、藍となる。

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近づくことを許さないような雨のベール。
花言葉は「移り気」「浮気」「冷酷」「高慢」「冷淡」。
葉には毒性があり、食用すれば青酸となり命に関わるほどの中毒を引き起こす。
そんな美冷さを知ってか知らずか、ドイツの医師シーボルトは
大輪のひときわ美しい品種に、愛する女性の名前「オタクサ(お滝さん)」をつけた。


[ Hyrangea otakusa]


楠本 滝は、丸山の遊女。
お滝さんは、シーボルトお抱えの現地妻。
お滝さんの家政婦にも手を付けるほど女性が大好きなシーボルトの恋は、
愛する女性の名前を上手に発音することもままならぬまま別れに転じ、
そのスピードを以てしても日本妻たちとの間に二児の私生児を授かっている。
花言葉は、どちらのことだったのか。
どちらであっても、与えられた花言葉は、変わりはしないのだけれど。

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ハイドランジアは憂鬱する。

その色を大胆に変えて行く姿を「移り気」とされ、
冷たい雨のなか、堂々と咲き誇る姿を「高慢」とされることを。
その大輪に潜む小さな粒こそが私である、と言いだせずにいる繊細さを、
微塵も含まないその花言葉に少しだけ不満を唱え、
いつでも雨の中に隠れようとする。

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ptoto by Yusuke ENDO / http://endoyusuke007.hatenablog.com/

Text by maki AKAGI

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column OMOTE side:月刊ageUN6月号掲載
紫陽花の霊力と水無月の祓い 〜植物が繋ぐ世界(8)〜
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201406 ura